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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10890号 判決

(昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件原告 昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件被告) 飯島精工株式会社

右訴訟代理人弁護士 助川正夫

右訴訟復代理人弁護士 助川武夫

(昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告 昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件原告) 渡辺金之助

昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告 電化産業株式会社

昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告 弋本樹脂工業株式会社

右被告三名訴訟代理人弁護士 後藤英三

右訴訟復代理人弁護士 谷口嘉宏

同 中村界治

右被告三名訴訟代理人弁護士 伊丹経治

同 山田正明

昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件被告 竹内茂次郎

主文

昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告渡辺金之助は同事件原告飯島精工株式会社に対し別紙第二目録(一)記載の建物を収去して、別紙第一目録(二)記載の土地を明渡せ。

右事件被告電化産業株式会社は別紙第二目録(二)記載の建物一階部分より、同被告弋本樹脂工業株式会社は右建物の二階部分より退去して、同原告飯島精工株式会社に対し別紙第一目録(二)記載の土地を明渡せ。昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件原告渡辺金之助の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は全部昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告(同年(ワ)第一〇九二四号事件原告)渡辺金之助の負担とする。

本判決は昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件原告飯島精工株式会社において、右事件被告らに対し金五〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

(一)、昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件原告、昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件被告飯島精工株式会社は、昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件につき主文第一・二項、同第四項同旨の判決並びに仮執行の宣言、昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件につき主文第三・第四項同旨の判決を求め、昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件被告竹内茂次郎は昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件につき主文第三・四項同旨の判決を求めた。

(二)、昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告、昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件原告渡辺金之助、昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告電化産業株式会社、同被告弋本樹脂工業株式会社は昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決」昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件につき、同原告渡辺金之助は

「(イ)原告と被告竹内茂次郎との間において、原告が別紙第一目録(一)記載の土地につき、存続期間昭和三九年一〇月一日から昭和五一年八月七日まで、賃料一ケ月八六二五円、その支払方法毎月末日限り翌月分支払の堅固の建物所有を目的とする賃借権を有することを確認する。(ロ)被告飯島精工株式会社は、原告に対し別紙第二目録(二)記載の各建物を収去して別紙第一目録(三)記載の土地を明渡せ。(ハ)被告飯島精工株式会社は原告が別紙第一目録(二)記載の土地を使用することを実力をもって妨害してはならない。(ニ)仮に(イ)の請求が認められないときは、原告と被告竹内茂次郎との間において、原告が別紙第一目録(二)記載の土地につき存続期間昭和三九年一〇月一日から昭和五一年八月七日まで賃料一ケ月一一八二円五〇銭(三・三平方米当り二五円の割合)、賃料支払方法毎月末日限り翌月分払の堅固の建物所有を目的とする賃借権を有することを確認する。(ホ)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに(ロ)項についての仮執行宣言を求めた。

第二、当事者双方の主張

(一)、飯島精工の請求原因

別紙第一目録(一)記載の土地は昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件被告竹内茂次郎(以下単に竹内茂次郎と略称する。)の所有であるところ、昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件原告、昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件被告飯島精工株式会社(以下単に飯島精工と略称する。)は昭和四〇年七月一七日これを賃借した。ところが昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告、昭和四〇年(ワ)第一〇九二四号事件原告渡辺金之助(以下単に渡辺金之助と略称する。)は別紙第一目録(二)記載の土地部分上に別紙第二目録(一)記載の建物を所有し、昭和四〇年(ワ)第一〇八九〇号事件被告電化産業株式会社(以下単に電化産業と略称する。)は右建物の一階部分を使用し、同号事件被告弋本樹脂工業株式会社(以下単に弋本樹脂と略称する。)は右建物の二階部分を使用し、いずれも前示土地部分を占有しているので、飯島精工は地主竹内茂次郎の所有権の代位行使として渡辺金之助に対し右建物を収去して敷地である別紙第一目録(二)記載の土地の明渡しを、電化産業に対し、右建物の一階部分から退去し、弋本樹脂に対し右建物の二階部分から退去して右土地部分の明渡しを求める。

(二)、渡辺金之助、電化工業、弋本樹脂の答弁及び抗弁、渡辺金之助の請求原因

(一)の請求原因事実はすべて認める。

渡辺金之助は昭和一一年八月七日別紙第一目録(一)記載の土地を、当時の所有者である竹内茂次郎の亡父幾太郎より木造建物所有目的並びに工場敷地として、期限昭和三一年八月七日までの約定で賃借し、右契約は法定更新後昭和三二年一月右幾太郎の死亡により竹内茂次郎が賃貸人の地位を相続承継した。その後昭和三八年夏頃渡辺金之助が別紙第二目録(一)記載の建物を建築した際これを承諾したので、賃貸借の目的は堅固な建物所有の目的に変更され、結局存続期限昭和五一年八月七日まで賃料一ケ月八六二五円、支払方法毎月末日限り翌月分支払いとする賃借権を有することとなり、且つ渡辺金之助は前示第二目録(一)の建物につき昭和三九年七月二一日所有権保存登記を了した。

よって渡辺金之助は右第一目録(二)の土地について使用権原があり、電化工業、弋本樹脂はいずれも渡辺金之助からその所有の第二目録(一)の建物を使用しているので、右土地の使用権原がある。

ところで竹内茂次郎は渡辺金之助の別紙第一目録(一)記載の土地に対する前示貸借権の存在を争い、飯島精工は別紙第一目録(三)記載の土地部分上に別紙第二目録(二)記載の各建物を所有して右土地部分を占有し、更に渡辺金之助の別紙第一目録(二)記載の土地の使用を妨害しようとしている。よって渡辺らは、飯島精工の請求には応じ難いと同時に、渡辺金之助は竹内茂次郎に対し、別紙第一目録(一)記載の土地について請求趣旨記載のとおりの賃借権の存在の確認を求め、仮に右土地全部についての賃借権の存在が認められないとすれば、別紙第一目録(二)記載の土地部分についての賃借権の確認(但し賃料一ケ月一、一八二円五〇銭)を求め、飯島精工に対し、別紙第二目録(二)記載の各建物を収去して、別紙第一目録(三)記載の土地部分の明渡及び渡辺金之助が別紙第一目録(二)記載の土地部分の使用することを実力をもって妨害することの禁止を求めるため本訴請求に及ぶ。

(三)飯島精工、竹内茂次郎の認否及び防禦的主張

渡辺金之助がその主張のように竹内先代幾太郎から主張の土地部分を賃借し、右契約が更新されたこと、右契約内容が使用目的が堅固建物所有に変更されたとの点を除くその余の主張どおりの契約になったこと、渡辺金之助主張の土地上にその主張の建物が存在し、そのうち第一目録(二)記載の土地上にある第二目録(一)記載の建物につき主張の日に所有権保存登記が経由されたことは認め、竹内茂次郎が渡辺金之助の右賃借権の存在につき現在これを争っていることもまたこれを認める。

しかし、渡辺金之助の賃借権は解除により消滅している。すなわち、渡辺金之助は昭和一三年頃自から設立した訴外日本電気工業株式会社(以下単に日本電気と略称する。)に賃借地を使用せしめ、転貸の形式を採ったうえ、右地上に日本電気が、昭和二五年に家屋番号一五七番の三、同三四年に家屋番号一五七番の六、同三七年に家屋番号一五七番の七の建物を建築所有した。日本電気はその後右三棟の建物につき、竹内茂次郎に無断で根抵当権の設定をなし、そのうち昭和三八年一二月四日に訴外小西忠二に対し設定した根抵当権については、昭和三九年一二月一九日同人からの任意競売の申立がなされ、昭和四〇年七月一五日飯島精工が建物を競落するに至り、日本電気の右敷地についての転借権は競落人たる飯島精工に譲渡されたこととなり、結局日本電気は無断で転借権を譲渡したこととなった。ところで渡辺金之助が日本電気に借地を使用せしめたことを竹内茂次郎が認容していたのは、日本電気は渡辺金之助が創設主宰してきた会社であり、実質は渡辺金之助と同一人格と解したためであり、渡辺金之助は日本電気の転借権無断転貸に対し、自己の行為と同様竹内茂次郎との賃貸借契約上の責任を負うべきである。

そこで竹内茂次郎は渡辺金之助に対し昭和四〇年七月二〇日到達書面をもって、賃貸借契約第一三項の定める解除権に従い、地上建物につき競売申立がなされたことを理由に解除し、更に前示建物の競落許可決定確定後である昭和四〇年九月三日到達の書面をもって本件転借権無断譲渡は賃借人たる渡辺金之助の賃借権の無断譲渡と同一視できる不信行為であるとの理由による契約解除の意思表示をなした。よって渡辺らの賃借権の主張は理由がない。

(四)解除の主張に対する渡辺らの主張

転借人日本電気が別紙第一目録(三)の土地上に建物を新築所有し、右建物に対する根抵当が実行され竹内ら主張の頃競落されたこと、右抵当権設定につき竹内茂次郎の了解を得ていなかったこと、竹内ら主張の日に主張の理由による契約解除通知が到達したことは認める。しかし右理由により竹内・渡辺間の賃貸借契約の解除をなし得るとの見解は争う。すなわち、竹内茂次郎は、日本電気に対する転貸を承諾し、昭和三八年一月、改めて賃貸借契約書作成の際渡辺金之助は日本電気の代表者を辞任し、別個の事業を始めることを了知しており、また同年暮頃からは、日本電気の名で支払っていた賃料を改めて渡辺金之助から受領されたい旨申し入れられ、渡辺金之助と日本電気とは別個の人格であることを了承している。渡辺金之助は日本電気辞任後は登記簿上取締役としての記載があるにかかわらず、実質は相談役に過ぎず、一切の責任を負わぬ約定があり、日本電気の抵当権設定につき承諾を与えたこともなく、渡辺金之助は日本電気の転借権譲渡につきなんら竹内茂次郎に対し責任はないので、右譲渡は、渡辺の賃借権の解除事由にはならない。

仮に解除事由になるとしても、転借権の無断譲受人は飯島精工であるところ、竹内茂次郎は飯島精工に改めて右土地を賃貸したのであるから、右無断譲渡を理由にする解除権行使は権利の濫用である。

仮に然らずしても、渡辺金之助は、小西忠二の抵当権設定以前である昭和三七年三月頃別紙第一目録(二)記載の土地についての転貸借関係を合意解除して返還を受け、自から使用してきているのであるから、竹内ら主張の解除の効力は右(二)の土地部分については及ばない。

(五)飯島精工らの主張

竹内茂次郎は渡辺金之助に対し、別紙第一目録(一)記載の土地を一単位として賃貸したもので、渡辺金之助と日本電気とが、いかなる範囲で分割使用していたかは知らないし、右区分は竹内茂次郎の賃貸関係にはなんら影響はない。

渡辺らの権利濫用の主張は争う。

第三立証〈省略〉

理由

一、別紙第一目録(一)記載の土地が竹内茂次郎の所有であること、飯島精工が昭和四〇年七月一七日竹内からこれを賃借し、同目録(三)の土地部分上に別紙第二目録(二)記載の各建物を所有して右土地部分を占有していること、渡辺金之助も、別紙第一目録(一)記載の土地につき昭和一一年八月七日、竹内茂次郎の先代幾太郎から木造建物所有の目的で期限昭和三一年八月七日として賃借し、竹内茂次郎が幾太郎の相続開始後右契約が更新され、(使用目的の変更があったか否かの点は暫く措く)、渡辺金之助が別紙第一目録(二)記載の土地部分上に別紙第二目録(一)記載の建物(昭和三九年七月二一日保存登記完了)を所有して現に右土地部分を占有し、電化産業、弋本樹脂が飯島精工主張のとおり右建物部分を使用して、右土地部分を占有していること、竹内茂次郎が渡辺金之助の別紙第一目録(一)記載の土地の賃借権について、すでに解除されたと主張して、その存続を争っていること、以上は各当事者間に争のないところである。

二、飯島精工、竹内茂次郎は、渡辺金之助の前示賃貸借契約は、転借人日本電気の地上建物が競売されたことによる約定解除権行使、あるいは、地上建物競落による転借権無断譲渡を理由とする解除通知により消滅したと主張するので、判断する。

(イ)  先ず、渡辺金之助が、昭和一三年頃、訴外日本電気を創立し、別紙第一目録(一)の土地中同目録(三)の土地部分に竹内茂次郎の了解のもとに工場三棟を建築したこと、日本電気が右三棟の建物につき、昭和二五年六月一四日以降昭和三四年一〇月九日までに所有権保存登記を了し、昭和三七年九月一四日を最初として城南信用金庫、その他に対して根抵当権を設定、登記をなし、そのうち昭和三八年一二月四日設定した根抵当権について、抵当権者小西忠二から昭和三九年一二月任意競売の申立があり、競売手続が開始され、昭和四〇年七月一五日飯島精工がこれを競落し、右競落許可決定が同月二二日確定したこと、以上はその成立に争いない乙第二ないし第四号証、渡辺金之助本人尋問の結果、竹内茂次郎本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨からこれを認めることができ、竹内茂次郎がその主張の理由による契約解除の意思表示をなしたことは当事者間に争いのないところである。

(ロ)  そこで、約定解除権行使による解除の点について検討する。

〈証拠〉によれば、竹内茂次郎、渡辺金之助が昭和三八年一月一六日、従前の賃貸借を確認約定した賃貸借契約の内容として、賃借人において、その所有の地上建物が競売に付された場合は、賃貸人において即時契約を解除し得る条項が存することが認められる。しかし、借地上に建物を所有する借地人は、通常多大の資金を建物に投入固定させているのであるから、確定的に借地権の譲渡又は転貸の事態が発生しない限り借地人が右建物を担保として資金運用に利用することは当然許さるべきであり、且つその段階においては賃貸人の権利になんら影響はないのであるから、特にこれを否とすべき合理的事情のない限り、右解除条項が地上建物につき競売申立のなされただけで解除権が発生するものと規定したものと解することは不合理であり、借地人に酷でもある。殊に右条項が市販の書式用紙を利用した書面に不動文字として記載されていることに照せば右条項の趣旨はその用語にかゝわらず、競落決定確定し、地上建物が第三者の所有に帰し、敷地使用権が譲渡されたものと看做された段階において、はじめて発生するものと約した権利と解するのが相当と思料する。

そうとすれば、地上建物について競売開始がなされたことを理由として解除権行使を主張する飯島精工らの主張は他の点について判断するまでもなく左袒できない。

(ハ)  次に競落による転借権無断譲渡による解除の点について検討する。

別紙第一目録(三)記載の地上建物が日本電気の設定した根抵当権の実行により競落され、飯島精工にその所有が帰したことは上段認定のとおりである。そして地上建物が競落された場合、抵当権設定者の敷地使用権が競落人に譲渡されたものと認めるべきことは前記判示のとおりである。よって右競落により敷地転借権を得た飯島精工は新たな転借人の地位に立つことになり、賃借人たる渡辺金之助は新たに転貸人の地位に置かれるわけである。

ところで転貸借関係は、本来賃借人と転借人間の貸借関係であるから、転借権の無断譲渡は、直接的には転借人に対する賃借権の無断譲渡であり、転貸人はこれを理由に転貸借関係を解除することができるわけであるが、賃貸人は転借人との間には賃貸借契約は存在しないのであるから、転借権の無断譲渡があるからと云って転貸人、転借人間の契約解除をなすこともできないし、譲渡そのものは転借人の行為であるから、これを理由に賃貸人・賃借人間の賃貸借契約を解除することもできないものと解さなければならない。しかし、賃借人が転借権の譲渡を容認している場合は、賃借人の新たな転貸借が有効に成立することになるのであるから、これを新たな賃借人の無断転貸としてこれを理由に賃貸借契約を解除し得るものと解さなければならない。

竹内茂次郎が日本電気の根抵当権設定につき承諾を与えていたことのないことは、渡辺金之助の明らかに争わないところであるから、進んで渡辺金之助が転借人たる日本電気の根抵当権設定を容認していたか否かについて検討する。

〈証拠〉によれば、右建物についての根抵当権の設定は、別紙第二目録(二)の(イ)の建物新築前の旧建物(一五七番の六)について昭和三七年九月一七日、同(ロ)及び(ハ)の建物について同年一二月二一日城南信用金庫に対してなされ、その後昭和三七年一二月二四日、同三八年一二月四日、同三九年一月二三日、同年六月二日、同年六月二四日と次々設定され登記が経由されたことが認められる。他方その成立に争いない乙第一四号証と弁護の全趣旨に照せば、渡辺金之助は少なくとも商業登記簿上右の期間日本電気の代表取締役又は取締役として、その役職にあったことが認められ、証人渡辺林太郎の証言によれば、同人は右の期間日本電気所有建物内の事務所において執務していたことが認められるので、渡辺金之助は日本電気の右抵当権設定につきこれを知り容認していたもの(たゞし信川化学工業株式会社との関係は除く)と推認するのが相当である。渡辺金之助らは、日本電気の抵当権設定行為を知らなかったと争い、証人島津久則の証言によりその成立を認め得る〈証拠〉によれば、渡辺金之助は昭和三六年九月八日代表取締役を辞任した旨の記載があり、証人島津久則、同佐藤寿美子、同志村裕次郎の各証言及び渡辺金之助本人尋問の結果中には、渡辺金之助は昭和三七年一月に代表取締役を辞任し、平取締役となり、同年二月ないし五月までは右取締役を退任しており、昭和三八年二月以降代表取締役島津久則とともに代表取締役に就任したが、自己の経営する電化産業の仕事に専念して、日本電気の実務には関与しなかった旨の記載がある。しかし、乙第一三号証の三の取締役会議事録によれば渡辺金之助は昭和三九年五月に代表取締役辞任を認められた旨の記載があるにかゝわらず、証人佐藤寿美子の証言によりその成立の認められる乙第一三号証の二取締役会議事録には、昭和三九年七月一六日の役員会議には渡辺金之助が代表取締役として発言していることが認められ、渡辺金之助の取締役辞任も日本電気社内においては必ずしも実質が伴わなかったことが推認され、〈証拠〉によれば、渡辺金之助が島津久則とともに代表取締役に就任したのは、島津久則は従業員出身であって、対外的信用のため渡辺金之助を代表取締役に就任させる必要があったためであることが認められ、日本電気社内における渡辺金之助の実質的地位は、島津久則より大であったことが推認され、以上の各事実から考えれば、渡辺金之助の取締役就任の事実も前段判示の推認を覆すに足らず、渡辺金之助が日本電気の事務に関与しなかった旨の供述部分は信用できず、他に前示推認を左右するに足る資料はない。

そうとすれば、渡辺金之助は、日本電気の根抵当権設定について少なくともこれを黙認していたことになるので、竹内茂次郎がこれを理由として昭和四〇年九月三日なした解除は、渡辺と日本電気が同一人格視さるべきであるとの主張点について判断をなすまでもなく有効と断ずべきである。

三、次に渡辺金之助らは、竹内茂次郎のなした解除は権利の濫用で許されないものと主張し、日本電気所有建物の競落人が飯島精工であり、且つ竹内茂次郎は別途飯島精工に本件土地を賃貸したことは当事者間に争いないところである。しかし、渡辺金之助の転借権譲渡容認により飯島精工が転借権を得たことは、賃貸人たる竹内茂次郎に対する不信行為であることに相違はなく、これを不都合として、渡辺金之助との賃貸借契約を解除した竹内茂次郎には、新たに飯島精工に土地を賃貸したことがあったとしても権利の濫用があるとは解し難く他にこれを権利の濫用と認めるに足る資料はない。

四、次に渡辺金之助らは、仮りに解除が有効としても、別紙第一目録(二)の土地は、日本電気から、その抵当権設定前に転貸借を合意解除して返還を受け、現に渡辺金之助において使用中であるから、解除の効力は及ばないと抗争する。

しかし竹内茂次郎と渡辺金之助間の土地の賃貸借が別紙第一目録(一)の土地を一括して一つの契約として締結したものであることは当事者間に争いなく、且つ右目録(三)の土地部分は同目録(一)の土地の約七分の六であることからすれば、渡辺金之助が一部転貸を解除しているとしても右解除の効力を一箇の契約中の右(三)の土地部分のみに限定して考えるべき根拠はないものといわなければならない。

よってこの点に関する渡辺らの抗争も理由がない。

五、以上説示したとおりであるから、飯島精工の渡辺金之助らに対する請求は理由があるから認容すべく、渡辺金之助の飯島精工及び竹内茂次郎に対する請求は結局理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小河八十次)

〈以下省略〉

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